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研究情報
- 渋谷研究室の研究内容はシミュレーション系と実験系に大別できます。シミュレーションではコンピュータを使って原子や分子ひとつひとつの挙動を追います。全体としてどのような結果が得られるかということも大事ですが、このようなシミュレーションでは,実際にある現象を忠実にモデル化し,最適な計算手法で解くにはどのようなプログラムが必要かなど,その過程についても重点が置かれています。
実験ではSEM(走査型電子顕微鏡)やAFM(原子間力顕微鏡),FIB(集束イオンビーム加工装置)を用いてミクロン,ナノオーダーの現象をとらえます。また,圧子押し込み機を使って薄膜(例えばハードディスクにはダイヤモンドライクカーボン=DLCと呼ばれる物質が数μmのオーダーで塗布されています)に関する物性を追求しています。
このページではそんな渋谷研で行われている研究のうち,学生が担当しているものについてその一部をご紹介いたします。なお,当研究室の指針や全体像についてはコチラのページをご覧ください。なお,ここで紹介した研究内容についてご質問などありましたら下記のメールアドレスへお送りください。また研究室見学の際に質問していただいてもかまいません。
卒業論文から
1,Nudged Elastic Band法*による転位のパイエルスポテンシャル**の評価
- Nudged Elastic Band法は繊維状態理論の調和近似における熱活性化運動過程を論じる際に,最小エネルギー経路および活性化エネルギーの大きさを評価するために用いられる方法の一つで,ヘシアンフリー(ポテンシャルの2回微分の計算を必要としない)であるのが特徴です。この研究では,簡単な2次元格子モデル中の転位の運動に対してNudged
Elastic Band法を適用し,転位運動のプロセス,ならびに活性化エネルギー(パイエルスポテンシャル)を評価しています。またすべり面に対して垂直な荷重を付加することにより,荷重に対する活性化エネルギーの変化を調査します。
この調査により,NEB法を用いることで,無負荷状態におけるパイエルスポテンシャルおよび転位の運動過程における原子配置を求めることができました。また,すべり面に垂直な負荷荷重がパイエルスポテンシャルに与える影響を調査することができました。
- *Nudged Elastic Band法・・・エネルギーと1対1に対応付けられた状態空間における2つの状態間を結ぶ最小エネルギー経路および活性化エネルギーを求める方法である.
**ポテンシャル・・・原子の挙動を追うシミュレーションでは必ず運動方程式が必要になります。その運動方程式の基礎となるものです。
2,分子動力学法を用いた2元系アモルファス合金の強度則の検討
- アモルファス金属は高強度,高じん性,耐食性などの優れた特性を持っています。従来はアモルファス金属を作製するのに急冷する必要がありましたが,近年比較的遅い冷却速度でもガラス化しにくい組成が見出され,様々な分野での応用が期待されています.
アモルファス金属は原子構造の不規則性のため,結晶材と異なる変形挙動を示します.結晶材料にくらべて強度的に優れていますが,降伏と破壊のメカニズムはいまだ明確には解明されていません.そこで,この研究では2元系アモルファスモデルを分子動力学法を用いて構築しました.また,多軸応力を負荷した時の降伏挙動について解析し,2元系アモルファス合金モデルの強度則の検討しました。
本研究の結果,2元系アモルファスモデルについて以下のことがわかりました。構築した2元系アモルファスモデルは引張り,圧縮で異方性が存在します。また,Tresca,von
Misesの降伏条件は引張り,圧縮に対して対称であるためシミュレーション結果とは一致しませんでした。Mohr-Coulombの降伏条件はシミュレーション結果を第1,2,4象限ではおおよそ一致しましたが,第3象限においては,シミュレーション結果のほうがより大きい降伏応力を示しているということが分かりました。
3,帯板の面内曲げにおける連続転位分布論と離散転位分布論との比較
- 材料のマクロな降伏現象は,転位の集団現象の結果として観察されます。したがって,無数の転位が生成し,相互干渉しながら複雑な運動をするため,外部負荷とのつりあった場によりマクロな塑性特性が記述されます。 そこで本研究では,弾完全塑性体としての帯板の面内塑性曲げ変形において,一様な転位密度を用いた連続転位分布論と,多重極子展開により遠距離効果を考慮した離散転位分布論との結果の比較検討を行いました。
遠距離効果の取り扱いについて,遠距離に位置する転位との相互作用をすべて直接離散計算によって求めることは,かなりの計算量と時間とを要することになります。その問題に対処するために,遠距離効果に対しては空間を規則的なセル配列に分割し,セル内の転位の弾性場を多重極子展開法を用いて近似する手法が提案されています。本研究では特に,帯板の面内曲げ問題において,多重極子展開法と直接離散計算との解析結果の比較検討を合わせて行いました。
連続転位分布論と離散転位分布論とを用いて,帯板の面内曲げ問題に対する両者の比較を行いました。また,離散転位分布論において,直接離散計算による解析と多重極子展開法を用いた解析とを比較した結果,多重極子展開法による近似は,非常に高い精度で直接離散計算による解析と一致しました。さらに,転位密度を一定とした場合については,連続転位分布論と離散転位分布論の解析結果は良く一致するが,転位密度に偏りが生じた場合,両者の間に差異が生じることがわかりました。
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4,球圧子押込み試験による薄膜構造体の強度評価法の検討
- 薄膜コーティングは,材料の表面特性の向上を主たる目的として産業界の幅広い分野で使用されています。また,近年の蒸着技術のめざましい発展とともに被コーティング材の範囲も拡大し,さらに多くの分野での利用が期待されます。しかしながら,薄膜を有する構造物の強度評価法は十分に確立されておらず,未解明な部分を多く残しております。そこで,本研究では,DLC(ダイヤモンドライクカーボン)薄膜を有する単結晶シリコンに球圧子押込み試験を行い,その後得られた押込み荷重−変位関係からき裂発生荷重を検討し,そこからき裂発生直前の応力状態を有限要素法によって解析し,薄膜構造体の強度評価を試みました。
実験では,単結晶シリコン上にダイヤモンドライクカーボンを0.5mm,1.0mm,2.0mm,の3種類の膜厚に蒸着させた試料に球圧子押込み試験を行い,押込み荷重−変位関係を調べるとともに,試験終了後に試料に発生したき裂の表面および断面の観察を行いました。荷重−変位関係からき裂発生荷重において負荷曲線の傾きが変化し,断面観察から膜と基盤との界面に剥離は発生していないことがわかりました。また,き裂は膜表面から発生していることがわかり,膜厚が大きくなるほどき裂形状が基盤の異方性の影響を受けた四角形状から円状に近づくことがわかりました。
以上の実験結果を踏まえ,き裂発生直前の応力状態を有限要素法によって解析しました。試料表面の半径方向応力の分布から,半径方向応力の最大値と表面き裂の観察結果によるき裂半径とがほぼ一致することにより,き裂は半径方向応力によって発生したことがわかりました。また膜厚が大きくなるほど半径方向応力の最大値は大きくなるため,破壊強度が大きくなることがわかり,さらに膜厚が大きくなると最大主応力のベクトル分布は四角形状から円状になるため,等方性の影響が顕著になることがわかり,実験結果と一致しました。
5,ナノインデンテーションにおける変位バーストの表面粗さおよび結晶方位依存性の検討
- ナノスケールでの押込み(インデンテーション)試験において,押込み深さが不安定に増大する変位バーストと呼ばれる現象が見られます。これは,圧子押込み時に発生する転位の集団化挙動が重要な役割を担っていると言われているからです。そのため,微小な押込み荷重範囲では,重要な転位源の1つである試料の表面性状や結晶方位依存性が密接な関係を持つと考えられます。しかしながら,試料表面の性状や結晶方位依存性と変位バースト挙動との関係に対する知見は,これまで十分に得られていません。そこで,本研究では,3種類の表面方位を持つ単結晶アルミニウムに対してナノインデンテーション試験を行い,試料表面粗さおよび結晶方位依存性が変位バーストに与える影響について検討しました。
インデンテーション試験を行なった結果,表面粗さの小さい試料ほど,第1番目の変位バーストの幅
Δh1および変位バースト発生時の押込み荷重P1が大きくなることが分かりました。したがって,バースト直前まで押込みにより蓄えられたひずみエネルギーと,転位の集団的射出により散逸される塑性仕事は密接に関係しているといえます。
また,押込み荷重P1と第1番目の変位バーストの幅Δh1を表す関係式には明確な比例関係が認められました。
メールによるお問い合わせは・・・
www-admin@comec.mech.eng.osaka-u.ac.jp
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大阪大学工学研究科 機械システム工学専攻 渋谷研究室
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